飛行機雲をより深く理解するには,飛行機のエンジンのしくみを知っておくとよいです。空港で飛行機を見るとエンジンを遠くから見ることはできますが,近くで見たり,中身を見る機会はなかなか無いかと思います。以前は,搭乗のときにターミナルから飛行機の近くにバスで行き,そこから歩いてタラップ(階段)を登ることがあり,エンジンを間近で見られてワクワクしたものです。しかし,最近はボーディングブリッジでターミナルから直接搭乗することが多く,そんな機会も少なくなってきています。
飛行機のエンジンを間近に見られる機会としては,航空自衛隊のオープンエアベース(航空祭)や各地の航空博物館があります。そこで撮影した写真をもとに航空機エンジンについて説明します。なお,最初に示した写真はワシントンD.C.のスミソニアン航空宇宙博物館に行ったときに撮影したものです。世界屈指の航空博物館ですので,機会があればぜひ行ってみてください。
ターボファンエンジン
最近の飛行機の多くはターボファンエンジンを搭載しています。たとえば,政府専用機(ボーイング777-300ER,エンジン:GE90-115BL)を見てみましょう。
以下にエンジンの写真を示します。正面から見ると大きなファンが見えます。飛行中,機内からこのファンを見ると回転しているところを見られます。
このファンの向こう側を見ると,外周側は向こう側が透けておりスカスカであるのに対し,内周側は細かい羽根のようなものがあることがわかります。
エンジン後ろ側から見ても外周側は向こうが透けて見えます。ただ,後ろから見えている羽根の形は,前から見える羽根の形とちがって放射状にまっすぐ伸びています。じつは,外周部ではファン(動翼)の後ろに固定された翼があります。動翼を通過した空気は旋回しているので,旋回を止めて後ろにまっすぐ空気を吹き出すようにするために固定された翼(静翼)が設けられています。
後ろから見ても内周側はよくわかりません。
横から見るとこんな感じです。
政府専用機のエンジンでは内部構造がわからなかったので,KC-767(ボーイング767をベースにした輸送機)のエンジンを見てみましょう。エンジンのメーカは政府専用機と同じGE(ゼネラルエレクトリック),型式はCF6-80C2です。前からみるとこんな感じです。ファンの形状が政府専用機と少し違いますね。
エンジンを飛行機から降ろしてカバーを取り外したものです。前から見るとこんな感じです。
横から見ると内側に配管のたくさんあるものが見えます。この内部を右側(空気が噴き出る側)から覗き込んだものがその次の写真になります。この配管がたくさんついたものの中がエンジンの心臓部で,前から吸った空気を圧縮するところ,燃料を燃やして空気の温度を高くするところ,熱くなった空気を膨張させて前面にあるファンや圧縮機を回転させる力を取り出すところ,空気を加速して後方に噴出させるところがあります。外側を流れる空気と内側を流れる空気は混ざってエンジンから噴出します。この噴出する空気の反動で飛行機は前に進みます。この噴出した空気の中にエンジンの排気ガス由来の水分が含まれるので,条件がそろえば飛行機雲ができます。
内部にはここに見えているような羽根の回転するもの(動翼)と固定されたもの(静翼)がセットで何段にも重なって配置されています。これらの羽根が圧縮や膨張作用を行っています。
飛行機のエンジンのことをなんとなく理解いただけたでしょうか? 飛行機雲を見たら,エンジンも頑張っているのだなと思いだしてみてください。