翼端渦って何だろう

あれこれ

これまでの記事で,「翼端渦」という言葉が何度か出てきました。翼端渦は飛行機とは切っても切れない縁を持っているので,それがどういうものか簡単に説明します。また,翼端渦は飛行の抵抗になるので,その対策としてどんな工夫がされているかについても触れます。翼端渦を知れば,飛行機雲観察がもっと楽しくなると思います。

翼端渦の発生原因と振る舞い

飛行機が飛ぶためには浮く力(揚力)を発生させる必要がありますが,それは主翼が担っています。飛行機が前に進むと,主翼の上下に空気が流れ,下面は圧力が高く,上面は圧力が低くなります。この圧力差が揚力を生み出します。
このとき,主翼の端っこ(翼端)を見ると,下面の圧力の高いところと,上面の圧力の低いところが隣接して存在することになります。圧力差があると,圧力の高い側から低い側に向かって回り込む流れが生じます。飛行機は前に向かって動いていますので,この回り込んだ流れが渦流れ(翼端渦)となります。
翼端は主翼の右側と左側の端にありますので,翼端渦は左右1対のペアで発生します。また,その回転方向は左右で反対(左側:時計周り,右側:反時計回り)となります。
参考)https://jaxa.repo.nii.ac.jp/record/2938/files/AA1830029009.pdf

翼端渦

1対の翼端渦が逆回転で平行に並んでいるため,それぞれの渦流れが影響を及ぼしあいます。すなわち,一方の渦は他方の渦の流れにより下方向に流され,同じように他方の渦も下方に流されます。この結果,1対の翼端渦は飛行機の飛んでいる高度より低い方向に向かって移動していきます。翼端渦は飛行機から斜め下方に向かって連なっているイメージです。

翼端渦の下降

なかなかイメージできないと思いますので,その現象をとらえた写真を示します。
下の写真は航空自衛隊のC130輸送機がこちらに向かって飛んでいるところを撮影したものです。C130のエンジン排気ガスは薄い黒色で,それが翼端渦によりどのように動いているかがわかります。写真には排気ガスの流れを強調するために画像処理を施してあります。
エンジンから出た排気ガスは主翼の下の方向に流れています。そして,C130の機体の下のところ(写真の底辺から出ている垂直尾翼の少し上あたり)にU字型に排気ガスが貯まったところが見えませんか? 翼端渦はいつまでも下降するわけではなく,あるところまで行くと下降が止まります。その下降が止まった高さで排気ガスがU字型に層を作っていると思われます。

輸送機C130の排気ガスが示す後方乱気流

つぎは,ブルーインパルスの例です。こちらは煙を出してくれるのでわかりやすいと思います。ブルーインパルスが低い高度で水平飛行をしながらこちらに向かって飛んできている場面です。
機体から出た煙は飛んでいる高度より低い方向に伸びていることがわかります。また,飛行機からある程度離れたところの煙は広がっていますが,水平方向に伸びています。この煙の挙動は翼端渦によるものです。

ブルーインパルス

鳥たちの翼端・翼端渦

鳥たちが飛ぶときも翼端渦はできます。ですから,彼らなりにいろいろ工夫をして翼端渦の影響を抑えようとしています。トンビとカモメを見てみましょう。トンビの翼の先端には小さい羽根が並んでいます。これによって翼端渦を拡散し,飛ぶときの抵抗を抑えているといわれています。また,カモメは先端が狭くなっており,翼端渦の発生を抑えているといわれています。
参考)https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1900-03.pdf

トンビとカモメ

映画「魔女の宅急便」で魔女のキキが鳥かごをぶら下げて,鳥と一緒に飛行している場面があったことを覚えていらっしゃる方はいますか? その場面では,突風が吹いて鳥かごを落としてしまい,キキにとっては大変なことになってしまいます。
ここで着目するのは,鳥の方です。鳥たちはどのような並びで飛んでいたか覚えてますか? V字編隊を組んで飛んでいたのです。鳥たちがV字編隊を組むのは有名な話で,うちの近所の鳥たちを観察しても見つけることができます(下の写真)。鳥たちが飛ぶときも翼端渦はできるとお話ししました。翼端渦の流れを見てみると,1対の翼端渦の間は下降流,その外側は上昇流となっています。後ろを飛んでいる鳥は,1対の翼端渦の外側(前の鳥の斜め後ろ)にいると,前の鳥が作った上昇流に乗ることができるのでちょっと楽ができます。このために,V字編隊を組みます。

鳥のV字編隊飛行

飛行機の翼端

鳥たちと同じように,飛行機も翼端渦の発生を抑える工夫がされてきました。ウィングレットが有名ですが,主翼の端の形をいろいろ変えています。以下に3つ紹介します

まずは政府専用機,ボーイング777-300ERです。主翼の端に行くに従い,面積を小さくしながら後退させています。カモメの翼みたいですね。

政府専用機B777-300ER

つぎは,ウィングレットです。フジドリームエアラインズのE-175を示します。主翼の端に小さい翼が付いているのがわかります。これがウィングレットです。

フジドリームエアラインズのエンブラエルE-175

最後に,ウィングチップ・フェンスです。主翼の端に矢じりのような板がついています。これも,翼の下から上への流れを抑えて,翼端渦の発生を抑制します。

飛行機のウィングチップフェンス

翼端渦についてすこしわかったような気になっていただけましたでしょうか? 飛行機でいろいろ対策をしていますが,翼端渦は必ず出てしまいます。翼端渦は飛行機雲に大きな影響を与えているので,翼端渦が理解できたとすれば,飛行機雲をより深くめでることができるようになったと思います。是非,空を見上げて楽しんでみてください。

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