空気はなかなか混ざらない

あれこれ

前線の話をしたいのですが,その前に「空気はなかなか混ざらない」ということを山から眺めた風景を見ながら考えてみようと思います。これが理解できると,前線のことをイメージしやすくなります。

逆転層は空気の上昇を妨げる「ふた」のようなもの

下の写真は2020年12月27日 8時50分頃,愛知県の本宮山からふもとを見たものです。冬型の気圧配置が緩んで,風の弱い朝でした。放射冷却でふもとには冷気が貯まっており,その上に逆転層があります。逆転層が煙の上昇を抑え,煙は横に広がっていることがわかります。
逆転層というのは,高度が高くなるに従い気温が高くなる層です。一般には対流圏内(天気に影響を与えるような空気が循環している圏内)では高度とともに気温が低くなるのに対し,その傾向が逆なので「逆転層」です。逆転層があると,それより低いところの空気が上昇しようとしても,その空気は逆転層の温度より低くて密度が大きいため,上に登っていくことはできません。ですから,逆転層より下の空気の層にふたをしたような形になります。

本宮山から見た逆転層

次の写真は2019年8月13日 8時頃,上高地から焼岳に登る途中で撮影したものです。性質の異なるふたつの空気の層が上下に分かれて存在しているところが可視化された例です。空気の境目の下側は空気が白っぽくなっているのに対し,上側は空気が澄んでいます。その境目あたりに積雲があります。白っぽくなっている層の上側に逆転層があると思われます。

焼岳から見た空気の層

さらに,もうちょっと視野を広げてみてみましょう。写真は2011年7月14日 8時50分頃,富士山の須走ルートを登っているときに撮ったものです。雲海の上に八ヶ岳が望めます。雲海がきれいですね。でもその上には青空が広がっています。雲海のところで空気の上昇が抑えられていることがわかります。

富士山から見た八ヶ岳と雲海

逆転層があるといわれても,「ほんとにそうなの」と思う方もいらっしゃるかと思います。富士山須走ルートの登り始め,4時40分頃に日の出を見ることができました。このとき,空気の層の境目をとおして太陽が見られ,太陽の上側と下側で形が異なっています。少なくとも,性質の異なるふたつの空気層が存在しているということを感じてもらえると思います。

逆転層による太陽の変形

つぎは,冬型の気圧配置のときにできた逆転層です。2021年1月10日 9時30分頃,本宮山山頂付近から浜名湖の方を見た写真です。冬型の気圧配置のとき,高気圧の下降流により断熱圧縮された空気で逆転層ができ,その下に空気の層ができます。見えている湖は浜名湖,海は太平洋で海面が光輝いています。その光を受けて,積雲の下側の空気は黄色っぽくなっています。

本宮山から見た逆転層

このように,上下に性質の異なるふたつの空気層があったとしても,逆転層があるとなかなか混ざりあわないということを感じていただけたかと思います。

対流混合層

山に登ると対流混合層もよく見かけることがあります。対流混合層は地面で温められた空気の対流により良きかき回された層です。その層の厚さは最大でも1200m程度なので,山に登るとその層を横から見ることになり,空気の透明度で存在することがわかります。その上の層は自由大気といわれ,地面や海面の摩擦や熱の影響を直接的に受けない層となります。天気予報などで上空1500m(850hPa)に○○℃の寒気や暖気が入ってくるというような説明がされますが,そこは地上の影響を受けない程度の高さのことをいっているということがわかります。
下の写真は 2022年11月19日 10時30分頃,三ヶ根山から名古屋駅のビル群を見たところです。高気圧に覆われた穏やかな日で,透明度の高い上空の空気とは違った空気が街を覆っていることがわかります。

三ヶ根山から見た名古屋の対流混合層

つぎは,2023年8月5日 15時頃,富士山富士宮ルートから伊豆半島方向を見たものです。太平洋高気圧に覆われて気温が上昇した日でした。伊豆半島の上に積雲が出ていますが,その向こうにはっきりと空気の層の境目が見えています。この層の下が対流混合層と思われます。

富士山から見た対流混合層

空気を混ぜるのはちょっと大変

冬にエアコンを使って暖かい空気を部屋の下の方へ持ってくるのは大変ではないですか? エアコンの吹き出し風を下に向けたり,サーキュレータを使ったりしているかと思います。自然の世界ではそんな便利なものはありませんので,自然の摂理に従って空気は振舞います。低気圧や前線がその役割をしているので,今後,いろいろお話しできればと思います。

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