春ですね。暖かくなって,山の雪解けも進んできています。ニュースで立山黒部アルペンルートの全線開通の話題を取り上げていました。この時期は「雪の大谷」が有名です。一度,あの雪の壁を実際に見てみたいと思います。さて,アルペンルートといえば,もう一つニュースがあります。アルペンルートの室堂と大観峰をつなぐ立山トンネルの中を走るトロリーバスが2024年のシーズンを最後に廃止され,電気バスに置き換わるということです。上の写真をご覧ください。これは針の木岳に登ったときに立山方向を見たものです。山の下の方には黒部ダムでせき止められた水でできた黒部湖があります。立山の中腹には黒部平と大観峰が見え,このふたつの地点は途中に支柱のないロープウェーでつながれています。大観峰からトンネルを通って立山の反対側にある室堂に行けます。このトンネル内でトロリーバスが運行されています。日本で唯一のトロリーバスで,これがなくなると日本ではトロリーバスが絶滅します。今回はトロリーバスについて考えましょう。
上海のトロリーバス
私にとってトロリーバスの思い出といえば,中国の上海で乗ったことです。下の写真は1988年に上海に行ったとき,当時の一番の繁華街だった南京路を写したものです。高層ビルはなく,いまとは全く違う景色かと思います。人がたくさん歩いていますが,車はそれほど普及しておらず,人々の主要な交通手段はバスでした。そのバスにトロリーバスが使われていたのです。真ん中に見えるバスはトロリーバスです。構成をよく見るために,写真を拡大し,コントラストを強めてみましょう。
下の写真がバス付近を拡大したものです。屋根の上から2本の棒のようなもの(集電装置)が伸び,それが道路の上に張られた2本の架線(電線)にそれぞれ接触しています。バスは架線から電気が供給されモータで動いています。当時,このようなバスが上海ではたくさん走っていました。
下の写真は上海のバンド(外灘)を写したものです。よく見ると道路の上に架線が張られ,トロリーバスが走れるようになっていることがわかります。この写真の右側に川が流れています。いまではその対岸に高層ビルが林立していますが,当時は高層ビルなどひとつもなく,租界時代の雰囲気を残したとても良いところでした。
上海のトロリーバスは地下鉄の開通などで路線がだいぶ減ってしまったようですが,2023年時点で8系統が残っているそうです。私は近代化された中国に行ったことはりませんが,行く機会がある方は是非トロリーバスに乗ってみてはいかがでしょうか。
電車とトロリーバスの架線の数
つぎはサイエンスらしい話をします。先ほどみたトロリーバスでは,道路の上に2本の架線が張られ,集電装置には2本のポールが用いられていました。これに対し,電車の架線は何本でしょうか?下の電車の写真で確認すると,架線は1本でパンタグラフにより電車に電気を取り込んでいます。小学校に行っていた頃,電気を通す道は電源から電流が出ていく道と帰ってくる道のふたつがあって,それがループ状につながっていないといけないと習いませんでしたか? トロリーバスの場合はバスにつながる電気の経路がふたつあるので,電流がバスに入る道と出ていく道があるんだなということで理解できます。
それに対し電車の架線はどうして1本なのでしょうか?
実は,電気の通るもう一本の道はレールが担っています。レールは鉄でできており,電車の車輪も鉄です。下の写真は新幹線(300系)の車輪です。車輪が鉄でできていることがわかります。この車輪経由でレールとつながる電気の道ができて,それがモータにつながっています。
レールは人間が触れるところにあるので,電位は接地側にあり,触っても感電しないようになっています。これに対し架線側に電圧がかかっているので,架線は絶対に触らないようにしましょう。
レールには電流が流れます。そのため,レールの継ぎ目で電流がうまく流れるように「レールボンド」という電線のようなものがつけられています。最近のニュースで,このレールボンドが盗まれたという記事を見ました。レールボンドは電気が流れやすいように銅でできているので高く売れます。また,架線と違って感電しないので,電車の来ない夜中なら盗もうとすればできてしまいます。迷惑な話です。
いかがでしたか? 立山のトロリーバスから上海のトロリーバス,さらには身近な電車について考えてみました。知らなかったことがひとつでもあって,「あー,そうだったのか!」と思ってもらえるものがあったら,それは私の喜びです。それではつぎのブログをお楽しみに。