ケルビン・ヘルムホルツ不安定性の波状雲

あれこれ

雲の形の中で最もインパクトのあるもののひとつは,ここに示す「波状雲」ではないでしょうか(上の写真は2024年4月11日撮影)。海岸に打ち寄せる波のような形をしています。そのできる原因は「ケルビン・ヘルムホルツの不安定性」によるものです。ケルビン(Kelvin)さんはこのブログで以前紹介しました。ヘルムホルツ(Helmholtz)さんも工学をやっているとよく出会うお名前です。私の仕事で一番お世話になったのはヘルムホルツ共鳴です。製品で音の対策をやっているとよく出てきます。そんなケルビンさんとヘルムホルツさんの名前が付けられた不安定性があるとき,運がいいと波状雲に出会えます。今回は私が撮影した写真を見ながら,この雲について見てみましょう。

富嶽三十六景のような波状雲

ケルビン・ヘルムホルツ不安定というのは,「密度・速度の異なる流体の境界面に発生する流体的な不安定」です。以前,このブログで空気はなかなか混ざらないというお話をしました。性質(密度,温度,湿度など)が異なるふたつの空気の塊が,層を作って存在するというのはよくあることです。そのふたつの空気層の界面(境目にできる面)において,上の層と下の層の間に風速の違いがあると,界面が波立っているようになります。ネットに計算結果の例が載っているので,それらを参考にしていただくと波立つ様子がより理解できると思います。
参考)ケルビン・ヘルムホルツ不安定性の計算例
http://case.advancesoft.jp/FrontFlowred/KH-RT-instability/index.html

界面に何もなければ,この波立ちに気付くことはなく,ここに飛行機が遭遇すると晴天乱気流で飛行機が揺れたりするのでちょっと大変です。
参考)晴天乱気流 https://www.jma-net.go.jp/haneda-airport/weather_topics/rjtt_wt20121031.pdf

しかし,界面にちょうど雲が存在すると雲が流れを可視化してくれるので,私たちが波状雲として見ることができます。下のふたつの写真は2022年1月5日に撮影したものです。写真の右端から左端にかけてたくさんの波が横に並んでほぼ等間隔で写っています。左側の波の部分を拡大したのが下の写真です。

ケルビンヘルムホルツの不安定性による波状雲

波を拡大すると,波頭が丸まっており,波の先端が少し倒れかかっているのがわかります。葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」で描かれているような波で,まさに芸術作品のような形状を示しています。

ケルビンヘルムホルツの不安定性による波状雲

いろいろな波状雲

つぎの例は,2018年1月28日に撮影したものです。雲の上辺にたくさんの波立ちを見ることができます。雲がかなり遠くなあったせいか,肉眼ではひとつひとつの波が小さく見え,まるでのこぎりの刃のようです。

ケルビンヘルムホルツの不安定性による波状雲

下の写真は2020年1月11日に撮影したものです。風車が見えますが,これは渥美半島の田原にあるものです。その風車の上空に波状雲が見られます。

ケルビンヘルムホルツの不安定性による波状雲

上の写真からもう少し広い視野(パノラマ写真)で撮影したものが下のモノになります。きれいな波状は風車の上だけですが,楕円状の雲の塊が周期的にできており,かなり広い範囲にわたってケルビン・ヘルムホルツ不安定性による流れの乱れが広がっていることがわかります。

波状雲撮影のチャンスを逃さないで!

界面の流れの乱れにより波状雲ができるということは,波状雲の形は常に変化しているということを意味します。刻一刻とその形は変化し,きれいな波の形をしているのはそれほど長い時間ではありません。波状雲を見つけたら,すぐに写真を撮って,その瞬間を逃さないようにすることが肝心です。常にカメラを持ち歩き,その時に備えることをお勧めします。

今回は波状雲について見てきました。皆さんがきれいな波状雲の写真を撮影したら,是非見せていただけると嬉しいです。

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