対流圏界面を可視化する「かなとこ雲」

あれこれ

積乱雲が発生したとき,雲の一番上の部分が対流圏と成層圏の境目に達すると,それ以上高いところまで雲は登ることができないので,横方向に広がっていきます。そのため,上の写真のようにキノコが笠を広げたような形になります。この一番上の広がった部分の雲を「かなとこ雲」,英語で「アンビル」(Anvil)といいます。今回は対流圏界面を可視化してくれる「かなとこ雲」について考えましょう。

積乱雲を横から見ると・・・

最初に,積乱雲を横から見たときにどんなふうに見えるかお話しします。下の写真は奥穂高岳に登ったとき,約250km離れた志摩半島付近に発生した積乱雲を撮影したものです。御嶽山や乗鞍岳の標高は約3000mありますが,積乱雲の一番高いところはそれよりかなり高い高度に達していることがわかります。積乱雲の一番高いところの形を見るときれいに平らになっています。
上昇した雲は対流圏と成層圏の界面である対流圏界面に達しており,それより高いところへは登ることができません。成層圏では高さに対する温度の低下率が対流圏より小さいか,逆に温度が上昇するようになります。その結果,対流圏界面のところは逆転層でふたをされたようになっています。ですから,きれいに平らになるのです。夏は冬より対流圏界面の高さが高くなりますので,対流圏界面高さは15000mくらいにはなっているかもしれません。
対流圏界面に達した雲は上へ行けないので横に広がります。そして,かなとこ雲ができますが,上空に風があるので,かなとこ雲が風に流されて,写真の右の方向に広がっていることがわかります。

奥穂高岳から見た志摩半島付近のかなとこ雲を伴った積乱雲

なお,成層圏形成の主要因はオゾンが紫外線を吸収して大気が加熱されるためです。このため逆転層が形成され,対流圏の流れにふたをすることになるのです。
参考)大気の構造 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-1-1.html

「かなとこ」「アンビル」って何ですか?

かなとこ・アンビルというのは金属加工で使う道具の名前です。検索してもらうとすぐに写真付きで出てきますが,上面が平らになった台のことです。かなとこ・アンビルと形が似ているので,雲はかなとこ雲・アンビルと呼ばれるようになりました。

いろいろな「かなとこ雲」

まずは,2022年6月27日に撮影したものです。手前に小さな積乱雲がありますが,その奥からでかい積乱雲のかなとこ雲がこちらに向かって伸びてきました。この日の天気図を見たら,暖かく湿った空気が流れ込み,北陸から東北で大雨でした。この写真は日進市から瀬戸・多治見(岐阜県)の方向を見ているので,岐阜県の方で積乱雲が発達していたと思われます。

かなとこ雲

上の写真の2年前,2020年8月27日に同じ場所で同じ方向を撮影したものが下の写真です。このときはすかさず気象レーダで雨雲位置を確認し,積乱雲は岐阜県八百津町付近にあることがわかりました。約40km離れたところにある雲です。気象レーダで見た雨雲の分布から判断すると,かなとこ雲は北北西(見ているところから離れていく方向)に流れていたようです。

かなとこ雲

下の写真は2021年8月1日に撮影したものです(撮影場所:蒲郡)。上空に寒気が入っているところに,地上の気温が上がり積乱雲が発達しました。雨雲レーダの記録と照合したら,積乱雲は奥三河の作手村付近にありました。かなとこ雲を伴った積乱雲の左側に新しい積乱雲ができていますが,この積乱雲もこの後発達し,対流圏界面まで達しました。

かなとこ雲

つぎの写真は上の写真の1日前,2021年7月31日に撮影したものです。東海地方中心に湿った空気の影響で雷雨が発生しました。大きな積乱雲の発生場所は雨雲レーダの記録から本宮山付近で,その積乱雲の手前にふたつほど発達中のものがあります。

かなとこ雲

乳房雲をともなう「かなとこ雲」

2021年7月31日に撮影した上の写真の積乱雲について,かなとこ雲に乳房雲が見られました。下の写真はその様子です。乳房雲をわかりやすくするため,画像処理を施してあります。
乳房雲は「雲底からたくさんの丸みのあるこぶが垂れ下がっている状態」(ウィキペディア)で,写真で丸みのあるものが複数固まって存在していることを確認できます。
かなとこ雲には乳房雲が出やすいといわれているので,かなとこ雲を見かけたら,注意深く観察してみるとよいと思います。

乳房雲を伴ったかなとこ雲

今回はかなとこ雲に着目しました。積乱雲が対流圏界面に達すると逆転層があるためそれ以上登ることができず広がります。それにより,対流圏界面がそこにあるということが可視化されます。ケルビンヘルムホルツ不安定性による波状雲もそうでしたが,雲によって存在が可視化される例です。雲のおかげで空気の流れの理解が進みます。ありがたいことです。

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