湯呑に入ったお茶を見ると,湯気が出ているのが見えます。温かいお茶の表面から水が蒸発し,周りの空気で冷やされて水滴になることで,お茶の表面から水が蒸発しているのだなということを感じることができます。
また,夏の暑い日に冷房をつけると,室内機につながったホースから水滴がぽたぽた落ちるのをみて,空気には水が含まれているのだなと感じます。
水はそのように蒸発・凝縮を繰り返して大気を循環しています。生活していると,そんな場面を可視化したところに出くわすことがあります。今回は,水の蒸発と凝縮の可視化について見ていきましょう。
水の蒸発
夏,7月の暑い日,夕方ににわか雨が降りました。にわか雨が降る前に,駐車場のアスファルトは直射日光が当たって温められていました。そこに雨が降ったものですから,下の写真のように濡れたアスファルトから湯気が立ち,それが夕日に照らされていました(2021年7月29日 17時50分撮影)。
夕立が降ると,打水効果があるし,降雨により冷気が下りてくることもあるので,夜の気温が下がります。天然のクーラで夏はありがたいです。
打水をして地面の温度が下がるのは,地面にまかれた冷たい水の温度が上がるのと,水が液体から気体に変わるふたつの効果がありますが,エネルギの寄与としては液体から気体に変わるときのエネルギ(蒸発潜熱)が支配的です。クーラでもこの蒸発エネルギの冷却効果を使っています。
秋,放射冷却により地面近くの空気の温度が下がりました。川を流れる水の温度は夏に温められた名残を残しているので,まだ高めです。すると,川の表面から蒸発している水が空気に冷やされて湯気のように立ち上ることがあります。写真は幸田の広田川の様子です(2018年11月26日 7時頃撮影)。
このような現象は日本の各地で起こり,「けあらし」と呼ばれています。放射冷却が起こる日は,必ず風が弱くて,夜に晴れた日です。その理由は
- 地面から宇宙(温度としては絶対零度に近い空間)に向けて放射で熱を伝えている現象なので,地面と宇宙の間に雲のような邪魔者がいない(晴れている)
- 冷えた地面でそれに接する空気が冷やされて,冷えた空気が地面付近に溜まることが必要(風が弱い)
からです。
風が弱いため,けあらしで立ち上った湯気は川面の近くを漂い,ときには川に沿って白い帯を作り出すこともあります。
山の森の近くの湿度が高い日,森の木の周りに霧が漂うことがあります。これは,木から蒸散された水分が湿度が高いために霧となって見えるものです。森は生きているということを感じさせてくれる現象です。
水の凝縮
アイスクリームを食べるとき,冷えたアイスクリームから湯気みたいなものは出ていませんか? 湯気は暖かいので上に昇っていきますが,アイスクリームの湯気みたいなものは下に流れて行きます。これは,空気に含まれている水分が冷やされたことで水滴となって出てきたものです。自然の中でもそのような現象を見ることができます。
下の写真は上高地から槍ヶ岳に登る途中の槍沢で撮影したものです(2012年8月12日撮影)。沢には雪渓が残っていて,空気が冷やされています。冷やされた空気に含まれていた水分は水滴となって現れ,雪渓の上に霧が出ています。
つぎは,川の水で空気が冷やされて霧ができたものです。撮影は2019年8月13日 5時20分頃,上高地の梓川です。梓川ですので,水はとても冷たいです。そこに冷えた朝の空気が触れてさらに冷やされ,空気に含まれていた水が水滴となって出てきたものです。
「けあらし」は川からの蒸発ですが,この写真は空気に含まれた水分の凝縮です。同じように川面に霧が出ていても,メカニズムが全く違います。何事も,見た目だけで判断してはいけませんね。
最後は,池(愛知池)で発生した霧です(2018年3月5日 17時50分頃撮影)。数年間ほぼ毎日この池の近くを通りましたが,この現象に出会ったのは1回だけでした。この池では珍しい現象です。
3月なので,水温はまだ低めでした。そこに季節外れの高湿度の空気が入り込み,池の表面で空気が冷やされ.空気に含まれていた水分が霧となったものです。いわゆる「移流霧」と呼ばれるものです。池の近くだけが霧に包まれ幻想的な光景でした。
水の蒸発・凝縮を可視化する雲といっても,霧の発生でした。なかなか地味な現象ですが,その裏には水の相変化(気体←→液体)を伴っています。その仕組みを理解すると,水の振る舞いをより身近に感じていただけると思います。霧が出ていたら,何が起こっているのかなと考えてみてはいかがでしょうか。