いまから65年前,1959年(昭和34年)9月26日に紀伊半島に台風15号が上陸しました。のちに伊勢湾台風と呼ばれるもので,東海地方に甚大な災害を起こしました。私が伊勢湾台風について知ったのは,山口百恵さんが主演したドラマ「赤い運命」でした。毎週,ドラマのオープニングでナレーションが伊勢湾台風の被害について説明するので,ドラマを見た皆さんが台風の怖さを実感していたと思います。
65年経ちますが,最近は海面水温の上昇などの影響で勢力の強い台風が日本を襲うようになってきており,またあの時のような大きな被害が起こるのではないかと懸念されています。今回は,そんなことを思いながら,いまでも残る伊勢湾台風の痕跡を紹介します。
伊勢湾台風の碑
伊勢湾台風の自然災害を伝承する碑は各地に建立されており,国土地理院の地図に登録されているものの一覧を下記サイトで見ることができます。
参考)https://www.gsi.go.jp/chubu/denshouhi_isewan_list.html
その中から,私が訪問した「伊勢湾台風殉難之塔」を紹介します。下の写真は訪問したときに撮影したものです(2019年5月25日撮影)。弥富市の広い道路の脇にあります。その碑文によれば,高潮の高さは5m31cmということで,この高さだと2階建ての家も屋根の軒先かそれ以上の高さまで浸水したようです。名古屋港で潮位が急激に上がりだしたのは夜の8時過ぎ,最高潮位を記録したのは10時前なので,高潮被害の発生したのは夜になります。真っ暗な中,急に水が来て水没が始まり,住民の皆さんには恐怖であったことは容易に想像できます。
街中の伊勢湾台風の痕跡
街中にも伊勢湾台風の記憶が残っています。蒲郡駅から海側に歩いてすぐのところに蒲郡郵便局があります。そこの壁面に下に示す「伊勢湾台風浸水潮位」の銘板がはめられています。
また,蒲郡市の形原テニスコートにも同じような銘板があります。このような銘板が街中にあることで,また同じような災害が起こるかもしれないと住民の方が思い,災害に備えて準備していただけるととても良いなと思います。
堤防に見る伊勢湾台風の痕跡
海岸沿いを歩てみると,そこに伊勢湾台風のレガシーを見ることができます。下の写真は堤防に埋め込まれているものです。それを見ると,「伊勢湾台風高潮対策事業」という文字が見えます。伊勢湾台風の高潮被害のあと,ふたたび同じ規模の高潮が来ても大丈夫なように堤防が整備されました。それらの堤防がいまでも私たちの生活を守ってくれています。
ただし,気候変動でより強い台風が襲来する可能性が高くなってきているので,今後はそのことを考慮した対策が必要ですね。
別の日に西尾市一色町の堤防も歩いてみました。一番最初に示した堤防が一色町のものです。このあたりは海抜0メートル地帯で,堤防の高さがより高く感じられます。その堤防に埋め込まれている銘板を見ると,「昭和28年災 海岸災害復旧助成工事」とあります。伊勢湾台風は昭和34年でしたので,それより6年前ということになります。
じつは,西尾市一色町や吉良町のあたりは昭和28年の台風13号で大きな高潮被害を受けています。
参考)まちが浸かった日 1953年9月25日 13号台風を知っていますか? | KATCH キャッチネットワーク
下記の文献に伊勢湾台風と昭和28年台風13号の進路の比較が記載されています。
文献)https://www.jstage.jst.go.jp/article/proce1955/7/0/7_0_289/_pdf/-char/ja
伊勢湾台風は潮岬に上陸したあと,伊勢湾の西側を北上したので伊勢湾に南風が吹き込み,伊勢湾の奥に当たる名古屋市南部や弥冨・蟹江~桑名あたりで高潮が発生しました。これに対し,台風13号は尾鷲付近を通過したあと,師崎から一色町あたりを通過したので,伊勢湾は進路の西側に入り伊勢湾付近では南風が吹かなかったので伊勢湾の奥に当たるところでは高潮が発生しませんでした。
このように,わずかな台風の進路の違いにより被害を受ける地域も変わってくることがわかります。
伊勢湾台風復興住宅
最後に,伊勢湾台風の復興住宅について見てみましょう。鍋田干拓地区を歩いてみると,いまでも復興住宅を見ることができます。下の写真の白っぽい3階建ての家がそれにあたります。下記文献によれば,災害復興住宅は「補強コンクリートブロック造3階建て」で,3階に避難室が設けられています。設計理念は「現代の水屋」を目指したということです。
参考)https://www.obayashifoundation.org/upload/pdf/2011_Kenkyu_15_Horita.pdf
いまでも現役で使われており,歴史的な意味においても今後長く残っていって欲しいと思います。
まとめ
伊勢湾台風から65年の節目となります。2024年の夏は異常に暑く,海水温も平年より高くなっています。日本近海の海水温が高くなれば台風が勢力を保ったまま日本にやってきて,大きな被害を与える確率が高くなります。是非,台風への備えを見直し,いつ台風が来ても対処できるように準備しておいていただけるとよいと思います。