以前のブログ(偏光板で色がいろいろ | ふわっとサイエンス)で偏光板2枚にいろいろなものをはさんで色を見てみようという実験について説明しました。今回はその別バージョンの紹介です。最初の写真は「水あめ」を使って信号機を作ったものです。透明な水あめを使ってどのように作ったか不思議ではありませんか? 今回はその不思議に迫ってみます。
水あめ実験の方法
今回の実験に用いた装置の写真を下に示します。ガラスコップの中にお店で買ってきた「水あめ」を入れます。そのコップの向こう側に偏光板を配置し,背面から光をあてます。そして,コップとカメラ(観察者の目)の間にもう一枚の偏光板を設置し観察します。コップとカメラの間の偏光板は,コップとカメラを結んだ線を中心に回転できるようにします。なお,実験装置の写真はコップとカメラの間の偏光板はない状態で撮影しています。
実験装置についていくつか気付いた点をお話しします。
- 容器について,今回は円筒状のガラスコップを使用しました。しかし,理想的には矩形の容器を使用したほうが容器を通過する光の経路が幅方向で均一となるので,実験を行ったときの色の分布が均一化できます。結果を解析する場合,その方が系が単純で解析のモデル化が容易になります。
- 今回は水あめを使いましたが,自分で砂糖水を作って実験することもできます。それぞれ,一長一短がありますので必要に応じ使い分けるとよいです。
水あめ:(長所)買ってきたものをそのまま使うだけで簡単。
粘度が高いので容器を揺らしてもこぼれにくい。
砂糖水:(短所)自分で砂糖を水に溶かして作る必要がある。
(長所)自分で濃度調整ができるので,濃度の影響を見る実験ができる。
大量に必要な場合は砂糖水の方がコストパフォーマンスが良い。
透明だった水あめが・・・
2枚の偏光板にはさんだ水あめの写真を下に示します。記入してある角度はコップとカメラにある偏光板の回転角です。写真に写った向こう側の偏光板を見ていただければわかりますが,0°と書いてある写真は2枚の偏光板を通過する光の向きがそろっており,向こう側の偏光板が透明に見えます。それに対し90°と書いてある写真では,向こう側の偏光板が黒く見えています。向こう側の偏光板を通過した光は,水あめを通過しないところでは,コップとカメラの間にある偏光板で遮られていることがわかります。
回転角0°では赤(茶色)ぽい色ですが,回転角の増加に従って青っぽくなり,90°で明るい水色になります。そこからさらに回転角が増加すると青が濃くなり,180°(0°と同じ)でもとに戻ります。
この画像をもとに,解析ソフト「ImageJ」を使って色の変化を定量化してみましょう。水あめには色の分布がありますが,画面に写っている水あめの中央部の解析を行います。下のグラフは色の三原色RGBの強度を解析したものです。偏光板の回転角0°では赤っぽいので赤の強度が大きく出ており,120°では青っぽいので青の強度が大きく出ています。また,90°では赤・緑・青すべての強度が相対的に大きめで,水あめが明るく見えています。逆に,150°では赤・緑・青すべての強度が相対的に小さめで,水あめの色が暗めになっています。
光は向こう側の偏光板を透過するときに向きのそろった偏光になりますが,水あめにはその光が透過するときに偏光を回転させる作用があります(旋光性)。その旋光の量は透過光路長や光の周波数により変化します。今回は光路長は一定なので,周波数による旋光性の違いにより波長(赤・緑・青)ごとにRGB強度が極大となる偏光板角度が異なります。旋光した角度は「赤<緑<青」の順で大きくなっています。光の1周期あたりの水あめとの相互作用が周波数に寄らず一定であると仮定すれば,赤より青の方が周波数が大きいので,青の方がより影響を受けやすいです。概略はこのような考えのような気がしますが,厳密には確認していないので各自で調べていただけると助かります。
参考)https://www.tsukuba.ac.jp/community/students-kagakunome/shyo-list/pdf/2012/high/3.pdf
また,上のグラフでわかるようにRGBはプリズムのようにはっきり分かれるのではなく,重なりを持って分かれるので,今回の実験ではプリズムで分光したときのようなスペクトルとはなりません。
工夫をすると・・・
偏光板を通して水あめを見ている中でいろいろと考えました。ひとつは,最初に示した「水あめ信号機」です。光源の強さを調整できれば,水あめをフィルタにして本物の信号機みたいなものが作れます。
ふたつめが下の写真に示すものです。何に見えますか? コップを横向きに表示してあるのがみそです。配色は・・・ウクライナの国旗ですね。鮮やかな色でとても再現性が高いです。コップの向こう側の偏光板は2枚並べてあり,その偏光の向きが90°変えて配置してあります。
まとめ
透明な水あめで信号機やウクライナ国旗が作れるなんて驚きです。装置が単純で手軽にできるので,是非ご自分で試してみるとよいと思います。偏光板を使った実験はまだまだいろいろできそうなので,引き続きアイデアを出して,また紹介できるようにしたいと思います。