5月になり,今年も梅仕事の季節がやってきました。毎年,青梅と氷砂糖を購入し(下の写真2025年5月17日撮影)梅ジュース用のエキス(梅シロップ)を作っています。インターネットで調べるといろいろな作り方が掲載されていて,今年はどんな作り方をしようか迷います。

作り方の流儀で大きく分かれるのは
- 青梅をそのまま使う
- 青梅を冷凍してから使う
です。青梅を冷凍すると細胞の中の水が凍って体積が大きくなり細胞壁が破壊されます。そのため梅の中の水分が出やすくなって短時間で梅シロップができます。梅の細胞からエキスが出てくるのは浸透圧の効果です。砂糖の濃度の濃い液と薄い液(梅の中)が半透膜(細胞膜)を境に存在すると,濃い液の濃度を薄くする力が作用して梅の中の水分が吸い出されます。
と書いていましたが,凍らせた場合は細胞膜が破壊されているので,浸透圧による水の通り道にバイパスができます。単に濃度を均一にしようすとる現象ととらえるべきかと思います。梅の中で見れば表面から内側に向かって濃度勾配があるので,拡散(フィックの法則)によって水分が梅の外に吸い出されると解釈した方がわかりやすい気がします。
氷砂糖
氷砂糖も奥が深いです。氷砂糖を買いに行くと「ロック」と「クリスタル」というのがあって,どちらを買ったらよいか迷ってしまいます。これを理解するには,氷砂糖とはどういうものか知る必要があります。
砂糖の主成分はショ糖(C12H22O11)です。砂糖の種類は製法等などによりいろいろあり,その糖度(含まれるショ糖の割合)は種類によって異なります。家庭でよく使われる上白糖だと,糖度は97.92%です。ショ糖以外の不純物が数%含まれています。
参考)砂糖の調理_生活衛生29-4(1985)
これに対し氷砂糖の糖度は99.95%で,ほとんどショ糖でできています。実は氷砂糖はショ糖の結晶を大きく成長させたものです。濃度の高い砂糖の水溶液に種となる小さな結晶を入れ,水分を蒸発させながら種結晶を大きく成長させます。ロックの場合は浅い皿に液と種結晶を入れ,2週間かけて成長させます。皿に広がってできた結晶の塊を砕いたらロックの氷砂糖となります。
これに対し,クリスタルはドラム状の容器の中に砂糖の水溶液と種結晶を入れ,ドラムを回転させながら加熱して水分を飛ばし,3~4日程度で作ります。形の整ったクリスタル形状となります。
梅ジュース用には「ロック」の方がよいという声が多いです。その理由は「クリスタル溶けやすい」ということです。氷砂糖の粒の大きさが同程度で比較すると,砕いて表面が凸凹しているロックの方が表面積が大きいみたいです。凹凸もあるので溶け方に影響していると思われます。この辺のメカニズムを詳しく知りたいものです。
氷砂糖の糖度はなぜ高い?
氷砂糖はなぜ糖度が糖度が高い(ほぼ100%)なのでしょうか? それは,種結晶の周りに結晶を成長させているからです。皆さん,棒ジュースを凍らせたことはありませんか? この時,水が氷になりますが,水に含まれている不純物は氷の中に取り込まれないので,ジュースの甘味成分や色素が取り残されます。ですから,凍らせた棒ジュースをちゅるちゅる吸うと甘味成分が先に出てきてとても甘くなります。そして,味の薄くなった氷をガリガリかじることになります。
これと同じことが氷砂糖を作るときに起きていて,ショ糖の結晶である氷砂糖の中には不純物が取り込まれず純度の高い結晶となります。このようなことは,工業的に「晶析」と呼ばれ,結晶化させて純度を上げることが行われます。
梅の表面と水中反射
以前,梅を水につけたときに表面に空気の層ができて全反射が起こるというお話をしました。
梅に見る光の反射 | ふわっとサイエンス
今回,梅の表面を拡大して見ました。下の写真に示すように産毛がいっぱい生えています。この産毛によって空気が取り込まれ,水につけたときに空気の層ができます。

梅の表面に空気の層ができると下の写真に示すように表面が鏡みたいになり,金属のように見えます。

まとめ
容器の中に梅と氷砂糖を交互に入れて1週間が経ちました。今回は凍らせずに行いました。いまのところ発酵はしておらず,うまい具合に梅のエキスが抽出されています。梅はエキスの中で浮いており,氷砂糖は底に沈殿しています。氷砂糖なので,砂糖は大きな粒々で残っています。この状態なら,容器を振って液を動かせば粒々の間を液が流れてくれて氷砂糖が溶けてくれます。また,砂糖の粒々がくっついて固まることもありません。これも氷砂糖を使う理由のひとつです。出来上がりが楽しみです。
