ほとんど知られていませんが,三河湾でも上位蜃気楼が見られます。上位蜃気楼は富山県魚津市のものが有名で,春によく出現するため「春の蜃気楼」とも呼ばれます。蜃気楼が現れると景色が上下方向に伸びたり,伸びながら反転したりします。これは空気で光が曲げられるために起こるのですが,そのためには冷たい空気の上側に暖かい空気が乗っかって温度勾配ができる必要があります。海水温の低い冬から春先にかけて,三河湾でもこの条件を満たす場合があります。海面で冷やされた空気の上に暖かい空気が乗っかるのです。今回は,この条件を満たしそうな日に散歩をしながら上位蜃気楼の出現を待ち,観測できたので紹介します。
三河湾の逆転層
空気層の下側で温度が低く,上側で温度が高いものは「逆転層」と呼ばれています。逆転層では下側の空気密度が大きく,上側で密度が小さいため対流が起こりにくく安定した層となっています。その結果,空気中のちりなどがそこにとどまり空気の透明度の差でそれが可視化されることがあります。2026年1月19日の三河湾における逆転層の様子を下の写真に示します。蒲郡から渥美半島の蔵王山(標高250m)・衣笠山方面を見ています。白い帯が横方向に伸びていますが,これは逆転層が可視化されたものです。

海沿いを散歩しながら逆転層の変化を観察しました。蔵王山方向の時間変化を下の写真に示します。11:36から12:30頃にかけて徐々に逆転層が薄くなりました。しかし,その後逆転層が厚くなり,再び薄くなっていきました。逆転層の上部付近は空気層の境目になるので温度勾配が大きく,少しの高さ変化で温度が急激に変化します。これが地上付近に降りてくると上位蜃気楼出現の期待が膨らみます。

上位蜃気楼の出現(新来島豊橋造船方向)
14:00過ぎ,ついに上位蜃気楼が現れました。蒲郡から新来島豊橋造船方向をみた写真を紹介します。参考として,蜃気楼が現れていないときの写真も掲載してあるので比較いただくとわかりやすいと思います。また,逆転層が白っぽい影響で写真が見にくくなっていたことから,必要に応じて色彩補正をかけてあります。
14:06の写真では,左に煙突,中央から右にかけて造船所のクレーンが見えています。煙突の赤白の模様に着目すると,上から1・2番目の赤が縮み,3・4番目の赤が伸びていることがわかります。クレーンの三角形の足については途中でカクカク曲がっています。

14:44の写真では,地上付近にあるものが縦に伸びています。

上位蜃気楼の出現(ラグーナ蒲郡)
ラグーナ蒲郡の方向を見てみましょう。まずは比較のため蜃気楼なしのときの様子を示します。見ている場所が蜃気楼ありの写真と少し異なるのはご容赦ください。

14:26の写真では堤防が伸びながら反転しています。

14:27の写真では建物が大きく伸び,クリーム色のラグーナベイコート倶楽部の建物が縦方向に縮んでいます。また,クリーム色の建物は空気の揺らぎにより直線部が凸凹して見えています。

まとめ
三河湾の上位蜃気楼はこれからが発生のシーズンです。風の弱い暖かい日は狙い目なので,これからも観測事例を増やしていきます。また,発生のメカニズムがまったくわかっていないので,入手可能な気象データを利用して明らかにしていきます。

