気象予報士試験の勉強で必ず出てくるのが積乱雲の生涯における各発達段階の特徴です。私が勉強した本の説明で用いられていたのは雲の中の様子を描いたイラストでした。雲の中は直接目で見えないし,レーダなどで雲の中の雨粒の分布や風速の観測もされていますが,現象が複雑なため初学者に説明するには現象を模式的に示したイラストが適していたものと考えられます。今回は,実際の雲の様子を写真で見ていただき,それをもとに積乱雲の一生を考えることで,みなさんの理解がより深まるのではないかと考えました。是非一緒に見ていきましょう。
積乱雲の成長と衰退
積乱雲の一生を観察するには,以下に示す条件を満たすものが適していると考えます。
- 積乱雲の周りに視界を遮るものがない
⇒積乱雲が単独で存在(複数の積乱雲が連なっていない,視界を妨げる他の雲がない)
⇒積乱雲の方向に家や山などがない - 観測者と積乱雲の間に,積乱雲全体が見える程度の適度の距離がある
- 積乱雲が発生してから消滅するまでほぼ同じところにとどまっている
⇒積乱雲を移動させる上空の風が弱い
上空の風が弱い日に,地面が温められて単独で発生するような積乱雲が適しています。私が住んでいる街は海側の視界が開けているので,海側でそのような積乱雲が発生するのを待ちました。なかなか都合よくそのような積乱雲は発生しませんが,2021年7月24日 11時頃に巡り合うことができました。この日の天気図を見ると等圧線は混んでおらず,また,上空には寒気が流れ込んでいました。
参考)2021年7月24日の天気図 https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/data/hibiten/2021/2107.pdf
下の4枚の写真は①~④の順番で時間的な変化を示しています。写真の中央に写っている島は「三河大島」です。
- 三河大島の上空で積乱雲が発達し始めました。雲の下を見ると,積乱雲によって直射日光が遮られているので少し暗めにはなっていますが,雨はほとんど降っていません。
- 積乱雲が上方に向かってもくもくと伸びて行っています。この前後の雲のもくもく度合いを見ると,この写真のタイミングがちょうど積乱雲発達のピークでした。雲の下を見ると雨柱があることがわかります。
- 雨柱の濃さから,この写真のタイミングが降雨のピークでした。積乱雲の形を見ると,もくもくした感じはなくなり,上方への雲の発達は収まり,風によって写真の右の方に流されています。
- 雨柱の濃さが少し薄くなり,柱の幅が広がっています。雲の形はさらに崩れてきています。
積乱雲の発達段階でいうと,
a)成長期:写真でいうと①の段階で,雲の中には強い上昇流があります。上昇流により雨粒の下降が邪魔されるので雨粒はなかなか地上に落ちてきません
b)成熟期:写真の②~③で,雲の中の雨や氷の粒が上昇流に打ち勝って下降を始め,それらが空気を一緒に引きずりおろし下降流が始まります。
c)減衰期:上昇気流はなくなり,降水が弱まり,雲が消散しまじめます。写真④にあたります。
積乱雲は以上のような経過をたどりますが,その寿命はふつう30~60分程度です。しかし,線状降水帯などはもっと長い間継続し被害を及ぼします。つぎは,その理由について説明します。
積乱雲の世代交代
下の2枚の写真をご覧ください。立派なかなとこ雲を形成した積乱雲が見えます。かなとこ雲のある積乱雲のすぐ近くにもくもくした積乱雲がいままさに成長している様子がわかります。これは,かなとこ雲のある積乱雲から生まれた子供(次世代)の積乱雲です。
積乱雲の成熟期から衰退期には下降流があると説明しました。下降する空気は氷の粒が解けるときに冷やされたり,水滴が蒸発するときに冷やされたりするので,冷たい空気となっています。この冷たい空気の下降流が地上付近に来ると積乱雲の周りに流れ出します。この流出流の先端のところが周りの空気とぶつかって上昇させるので,そこで新しい積乱雲が発生します(条件がそろったときに限られますが)。これが繰り返されると,長い時間積乱雲が存在し続けることになります。
まとめ
写真を見ながら積乱雲の説明を聞いたら,わかったように気になっていただけたでしょうか? 写真を使って説明するのは新たな試みのような気がしますので,少しでも皆さんのお役に立てれば嬉しいです。