「しんきろう」という言葉を聞いて,どのような風景を思い浮かべますか? 砂漠の中で旅人が水を求めてさまよう中で,幻覚のように見るものだと想像されていませんか? 実際の「しんきろう」は意外と身近なところで見られます。しかし,見ている人がそれを「しんきろう」と認識せずスルーしてしまっていることが多いように思います。それがどのようなものか知ることで,意外とすぐに見つけることができます。今回は「しんきろう」の中でも出現頻度の高い「下位しんきろう」について紹介します。「しんきろう」を知って,それを「探してみたいな」と思っていただければ嬉しいです。
「しんきろう」を知っていますか?
「下位しんきろう」はその景色の底面に鏡があって,景色が下に反転して映っているように見えます。下の写真(2021年12月29日撮影)は「しんきろう」ではありませんが,陸地近くの水面が凪いでいて陸地の建物が水面に映っている風景です。「下位しんきろう」は空気の温度分布で光の経路が曲げられ,これと同じように景色が下に映って見えます。

有名なのは「逃げ水」といわれる現象です(下の写真,2020年8月12日撮影)。この写真は夏に撮影されましたが,夏のアスファルトでよくみられる光景です。この原因は,地面が太陽で暖められて熱くなり,地面がその上にある空気の温度を上昇させることで,地面近くの空気温度は高く,そこから上の方に行くにしたがって温度が下がる空気の温度分布が生じたからです。この空気の温度分布により光の経路が曲がるため逃げ水が見られます。

下の図で下位しんきろうのメカニズムを説明します。光の進む速度は空気の温度が高いほど速くなります。そのため,光の進む経路は下に凸に曲がります。人間には光の来る方向にものがあるように見えます。そのため,実際の形が下図の青△であっても,人間の目には緑△のように見えます。緑△の下の方は光の曲がりにより下に反転して見えます。

下位しんきろうのある風景
三河湾で見た下位しんきろうを紹介します。下の写真(2021年10月18日撮影)は蒲郡から見た風車です。風車の根元が反転して海側に映っていることがわかります。海面温度が空気の温度より高いとき,海面付近の空気が暖められて,空気の温度分布は海面付近”暖”,海面から離れるほど”冷”となります。これにより「下位しんきろう」が現れます。空気の温度より海面水温が高いときにあらわれるので,秋~冬にしばしば見ることができます。

視点を変えると現れる
下位しんきろうは見ている人の視点の高さによっても見えたり見えなかったりします。下の2枚の写真(2005年11月19日撮影)は同じ日のほぼ同じ時間に撮影したものですが,見ている高さが違います。海面の様子から,上の写真の方が高いところから撮影していることがわかります。高いところから見ると,対岸の渥美半島がはっきりと見えています。これに対し,見えている高さが海面に近付くと下位しんきろうが現れて渥美半島がやせ細り,渥美半島の下に朝焼けの空が反転して映っています。
見る高さを低くして下位しんきろうを探してみるとよいことがわかります。


まとめ
下位しんきろうを少しは理解いただけたでしょうか? 知ることは気付くことです。これまでと見える風景が変わってくるかもしれません。見る高さを変えたりしながら,是非,しんきろうを探していただければと思います。