気象レーダはどんなもの?

災害に備えよう

天気予報でおなじみのモノといえば「気象レーダ(雨雲レーダ)」ではないでしょうか。気象レーダの技術的なことは気象庁のサイト(下記)でご覧いただくとして,ここではどんなものか概略をお話ししたいと思います。気象レーダを身近なモノとして感じていただけると嬉しいです。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/radar/kaisetsu.html

いろいろな気象レーダ

もっとも有名な気象レーダといえば富士山の頂上にあったものではないでしょうか。NHKの「プロジェクトX」第1回は「巨大台風から日本を守れ」ということで富士山レーダの建設の苦労が紹介されていました。1965年4月1日に正式に動き始め,台風観測などに大いに活躍しましたが,気象衛星「ひまわり」などの観測体制の充実にともない,1999年11月1日にその役割を終えました。
下の写真は1989年7月30日に富士山に登った際に撮影したものです。富士山測候所という看板が掲げられています。白いドームの中にレーダのパラボラアンテナが設置され,クルクル回って日本の周りの雨雲の様子を捉えていました。パラボラアンテナの直径は5m,レーダの波長は10cm (Sバンド),最大測定距離は600㎞以上でした。厳冬期も含めて通年で人が常駐してこの測候所の機能を維持していました。

富士山レーダ

レーダドームがなくなった富士山測候所の跡地の写真を示します。撮影は2010年7月24日で,上の写真からおよそ21年後の姿です。看板に「富士山特別地域気象観測所」と掲げられています。

富士山特別地域気象観測所

次に紹介するのは御在所岳にある気象レーダです。これは国土交通省が管理しているレーダで,御在所岳頂上のロープウェー駅の近くにあります。使用している電波はCバンド(波長:約5㎝)の単偏波です。単偏波というのは,最近のレーダで使っている二重偏波に対し,少し簡易な電波を使っているということで,観測できる項目が二重偏波に対し限られています。ただ,最近のXバンド(波長:約3cm)に比べて遠くまで観測できるので,その特徴を活かしてCバンドとXバンドのレーダの観測結果を組合わせてうまく使っています。
参考)国土交通省,レーダ雨量計情報
https://www.mlit.go.jp/tec/tec_fr_000040.html
参考)CバンドMPレーダ雨量計とXRAINによる高精度広域雨量計測
https://www.pwrc.or.jp/thesis_shouroku/thesis_pdf/1607-P026-029_yamaji.pdf

御在所岳雨雲レーダ

三つめはXRAINでおなじみのXバンドMPレーダです。Xバンドは先ほどお話しした使っている電波の波長,MPというのは「マルチパラメータ」という意味で,二重偏波を使って雨粒の形状を把握しています。これにより,雨量を推定する精度が高くなり,ほぼリアルタイムで観測結果の配信が可能になりました(1から2分)。このレーダも身近にあります。下の写真は愛知県安城市の矢作川沿いにあるレーダサイトです。レーダの周りに高いものがあると電波が遮られてしまうので,そのような障害物のない見晴らしの良い場所に設置されています。これもドームの中にレーダが収納されているのでレーダのパラボラアンテナを見ることはできませんが,ドームの中でアンテナがくるくる回っています。

安城のXバンドMPレーダ

これからの気象レーダ

これまで紹介した気象レーダは電波を出して,その電波が雨雲に反射されて帰ってきた電波を受信し,空全体を観測するためにドームの中でパラボラアンテナがくるくる回っていました。くるくる回るのは,電波を出す方向を変える必要があるためです。空全体を観測するためには,パラボラアンテナをくるくる回しながら上下方向にも向きを変えないといけないので,観測に少し時間がかかります。
この時間を短縮しようと,新しいレーダのアンテナが開発されています。
それはフェーズドアレイレーダです。「フェーズドアレイレーダなんて見たことない!知らない!」なんて言う人がほとんどではないでしょうか? そんなことはありません。ニュースで見たことがある人が多いと思います。なぜなら,フェーズドアレイレーダは自衛隊のイージス艦のレーダで使われているからです。下のイージス艦「きりしま」の写真をご覧ください。特徴的な8角形の板が見えると思います。これがフェーズドアレイレーダです。
また,2013年4月に公開された映画「名探偵コナン 絶海の探偵」でイージス艦が舞台となっており,そこでもフェーズドアレイレーダが出てきました。

フェーズドアレイレーダは電波の向きを電子制御で変化させることができるので,パラボラアンテナで必要だった上下方向の首振りをなくすことができます。そのため,空全体の観測に必要な時間を大幅に短縮することができます。高速で測定できるので,短時間で目まぐるしく変化する現象を立体的に連続的に観測するなど,その活躍が期待されています。

参考)フェーズドアレイレーダ 気象庁気象研究所
https://www.mri-jma.go.jp/Facility/phasedarrayradar.html

イージス艦

イージス艦なんか見る機会がないという方は,航空自衛隊のオープンベースに行ってみてもよいかもしれません。下の写真は「地対空誘導弾システム ペトリオット」のレーダ装置で,オープンベースで展示されていたものです。小さな丸いものが格子状に密に並べられて,フェーズドアレイレーダを構成していることがわかります。イージス艦よりレーダを間近に見られるのでより分かりやすいです。

地対空誘導弾システム ペトリオット レーダ装置

雨雲の動きを参考に安全確保を

気象レーダについて知って,少しは天気予報の雨雲レーダに親近感を感じていただけましたでしょうか? 短時間先の降雨を予想するのにレーダの情報は大変有効なものです。スマホで情報を得るのも簡単ですので是非活用し,ご自分の安全確保に役立てていただければと思います。

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