パスカルさんと仲良くなろう(単位の話)

あれこれ

天気図を見ると,高気圧が1000hPa(ヘクトパスカル)とか,台風の中心気圧が960hPaとか書いてあります。「ヘクト」とか「パスカル」とかなかなかなじみがなく,「ヘクトパスカル」と言われてもピンとこない方が多いのではないでしょうか。今回は圧力の単位である「ヘクトパスカル」について考えます。

パスカルさん

以前,絶対温度の単位である「ケルビン」[K]についてお話ししました。ケルビンは人の名前でしたが,パスカルも人の名前です。いま使われている単位は「SI単位」ですが,この単位を決めるときに人の名前を使わせてもらいました。電力の単位の「ワット」や磁束密度の単位「テスラ」(電気自動車メーカの名前で有名ですが)は人の名前というのを知っていらっしゃる方も多いと思いますが,それらと同じです。

圧力のパスカルさんは知らなくても,この言葉を聞いたことがある方は多いのではないですか?
「人間は考える葦である」
昔の人は科学に限らず哲学やそのほかいろいろな分野に興味を持って思索を巡らしていたので,パスカルさんも物理の分野にとどまらず,哲学的な言葉も残しています。この有名な言葉を残したのがパスカルさんです。

「ヘクト」って何ですか?

パスカルさんの前に「ヘクト」ってついてます。これって何ですか? これは「接頭辞」または「接頭語」と呼ばれるもので,長さの「キロメートル」[km]の「キロ」[k]や,メモリーの容量を示す「ギガバイト」[GB]の「ギガ」[G]と同じ仲間です。キロ[k]は1000を示すもので,
1000m(メートル)=1km(キロメートル) ですね。
ヘクト[h]は1000より一桁小さい100を意味するものです。
100Pa(パスカル)=1hPa(ヘクトパスカル) となります。昔の小学校では,面積の単位でアール[a](1辺の長さが10mの正方形の面積)というのを習いましたが,
100a(アール)=1ha(ヘクタール)となります。1haは1辺の長さが100mの正方形の面積です。ヘクタールはヘクト・アールがなまった呼び方です。ここの「ヘクト」も100という意味です。
ヘクトは圧力のhPaと面積のhaくらいにしか出てこないのでなじみがありませんが,意味を知っておくと理解が深まると思います。

圧力って何ですか?

圧力の単位「パスカル」[Pa]には裏の顔があります。その裏の顔を理解するには圧力って何かを知る必要があります。ゴム風船を膨らますとき,口からフーっと空気を押し込む必要があります。ゴム風船の中の圧力が高くなっているので,その押す力に打ち勝って空気を入れなければならないからです。その空気を押す力が圧力です。圧力はある決まった面積(単位面積,1平方メートル)あたり,どのくらいの力が作用しているかというように考えます。力の単位はニュートン[N]です。1Nの力の大きさは,100gの質量の重りを手で持ったときに作用する力の大きさとほぼ同じです(0.1[kg]×9.8[㎨]=0.98[N])。ゆえに,圧力[Pa]は力ニュートン[N]割る平方メートル[㎡],つまり[N/㎡]で表すこともできます。
1[Pa]=1[N/㎡] です。N/㎡と書くよりPaでかいた方が簡単なので一般的にはPaで表します。

なぜ「ヘクト」パスカル?

ヘクトは圧力と面積くらいにしか出てこないと言いました。メモリの容量でもk(キロ),M(メガ),G(ギガ)と1000倍刻みで接頭辞が変化しており,ヘクトは使われていません。圧力もkPa(キロパスカル)表記でよかったのではないかと思いませんか? そこは圧力の単位の歴史が関係しています。
私の小さいころ,天気予報で使われていた単位はミリバール[mbar]でした。ミリは千分の1を示す接頭辞ですね。つまりバールの1/1000が単位として使われていたのです。しかし,世界の流れとして「使う単位は「SI単位」に統一しましょう」というのがありました。バールやミリバールはSI単位ではなかったので,Pa表記にする必要があったのです。そのとき,運がいいことに[mbar]と[hPa]は圧力が同じなら数字が同じになりました。ですから,[hPa]表記にしておけば[mbar]を使っていたときと,同じ数字となって都合がよいということで[hPa]表記となったのです。

私はエアコンや空調の開発をやっていた時期があり,圧力をよく測定していました。そのようなときは,[kPa]や[MPa]の単位をよく使っていました。工学の実験でhPaを使うことはありませんでした。

「バロメータ」って知っていますか?

若い方はなじみがない言葉かもしれませんが,以前は
「○○は健康のバロメータ」
という言い方をしました。ここでいう「バロメータ」というのは「指標」みたいな意味です。昔の気圧の単位がバール[bar]といいましたが,バールを測るメータが「バロメータ(barometer)」です。つまり,「バロメータ」とは「気圧計」のことです。気圧計という言葉が生活の中で頻繁に使われていました。それだけ,気象が身近なものだったということだと思います。

天気図で使われているヘクトパスカルについて少しは理解していただけたでしょうか? SI単位は大変すばらしい単位系で,高校の物理でこのあたりのことをしっかり理解できると物理が面白くなると思います。少しでも「へー,そうだったんだ」と思えるところがあれば幸いです。

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