空気流れの可視化に続き,雲粒子の動きの可視化について考えましょう。そのために,尾流雲に着目します。尾流雲は,重力により雲から落ちてきた雲粒から構成され,それが地上まで達すれば雨や雪になるのですが,地上に達する前に蒸発してしまい,途中で見えなくなってしまうものです。見た目には筋状のしっぽみたいに見えて,尾流雲と呼ばれています。
上の写真に写っている尾流雲は,落ちてくる雲粒の粒子濃度が濃く,光に照らされているので全体的に白くなっています。雲からある程度落ちたところに乾いた空気の層があると推定され,乾いた空気の層のところまで来ると尾流雲が消えています。遠くに見えている山の高さは250m程度なので,この現象が起こっているのは数百メートルくらいの高さと思われます。今回は,尾流雲について見ていきましょう。
いろいろな尾流雲
下に尾流雲の写真を3枚ほど示します。最初はレースのカーテンみたいにスケスケで,ほぼまっすぐ下に伸びている尾流雲です。この写真は一番最初の写真と同じ日(2017年11月19日)に撮影したものです。撮影場所は蒲郡の西浦で,写真の下部に見えているのは田原の風車たちです。この日は冬型の気圧配置で日本海側では雪や雨となり,筋状の雲の生き残りがこの地方にも侵入してきていました。それらの雲から落ちてきた雲粒が尾流雲となって見えました。
つぎは2019年9月8日 18:00頃に撮影したものです。夕日にあたってカーテン状になった尾流雲が光輝いています。
3枚目は2020年10月26日 6:00頃の撮影です。写真の真ん中に尾流雲が写っていますが,尾流雲はくの字にまがっています。くの字の屈曲点の上と下で風向きが異なるものと推定されます。
尾流雲で可視化された空気の流れ
最後に,横方向の異なる場所で下方に流れている尾流雲が合体して,1本の筋となって横方向に流れている様子を写したものです。撮影は2024年5月3日 11:00頃です。尾流雲があるところに左の方に吹く風があり下方に行くほど風速が遅くなっていると考えられます。そのため,落ちてきた雲の粒は風速の遅いところで1本になっています。また,横方向に流れている尾流雲よりも下には積雲があり,積雲より下は対流混合層があるものと考えられます。
以上をまとめると,地上から積雲までは対流混合層,積雲と尾流雲が横に流れているところまでの層,尾流雲が斜め下方に流れる層があることが推定されます。
以上,尾流雲を見てきました。「雲はどうして落ちてこないの?」という質問をたまに聞きます。しかし,条件がそろえば雨が降っていなくても雲粒は落ちることがあります。それが尾流雲です。そして,尾流雲の落ちる様子を観察すると,「上空でどんなふうに風が吹いていそうか」ということを推定できることがあります。尾流雲を見かけたら,是非皆さんも風の流れを考えてみてはいかがでしょうか。